歴史上、大多数の地政学的な過ちは暴力的な戦いと関連している。それらは抗争に繋がる緊迫した状況の中で発生するか、他の国民国家との抗争の最中に発生する。これは昔から変わらない。
しかし時々、暴力的な戦いと関連しない過ちが世界的な舞台で発生することがある。このような状況はほとんど常に、他の国民国家への損害ではなく、なんらかの形で自国に害をなす国民国家が中心となって発生する。これは自傷行為による傷と考えることが出来る。
このような自傷行為の一例として、北朝鮮のインターネットを挙げることが出来る。Wikipediaによると、「北朝鮮でインターネットを利用することは可能だが、特別な許可を受けないと利用できない。主に政府関連事項を目的に利用されている。また、外国人にも利用されている。北朝鮮には主要機関を繋ぐ光ファイバー網など、ある程度のブロードバンドインフラストラクチャーがある。ほとんどの個人また法人向けのオンラインサービスは、Kwangmyongとして知られる国内限定の無料ネットワークによって提供されている。世界のインターネットへのアクセスは非常に小規模の集団に限定されている。」
北朝鮮の指導者は端的に言えばインターネットの利用を政府と北朝鮮を支配する一族に限定するという判断を下したということだ。小市民と経営者は特別な許可なくして開かれたインターネットにアクセスすることを許されていない。彼らはインターネットの価値提案を模倣するイントラネットの使用こそ許されているが、イントラネットは開かれたシステムが持つ自由、本当の価値を持たない。
北朝鮮の判断が大きな過ちだったことを理解するのにロケット科学者は必要ない。彼らは国とその国民に対する独裁主義的な支配体制を経済の繁栄に優先して追及することを選んだのである。これは権力の安定化を図る上で重要な判断ではあったのだろうが、北朝鮮の国民にとっては最悪の事態である。
中国もこの過ちを繰り返そうとしている。
東洋の超大国はビットコインと興味深い関係性を持ってきた。政府は端的に言えばビットコインとそれに関連する活動を何年間も禁止してきた。しかしその禁止令は一般的な市民や起業家にしか適用されていない。政府役人であるかもしくは特別な許可を確保することが出来れば、ビットコインを正当に利用することが出来る。これはほぼ北朝鮮のインターネット戦略の完璧なレプリカだ。力をもたらす技術を支配層やその身内に留めるというやり方である。
しかし、中国は最近、反ビットコインの姿勢を強めている。過去数週間、中国はこれまでよりも大幅に積極的なビットコインの取り締まりを実施している。その結果、国内の全マイナーのうち最大で90%が操業停止する事態となっている。マイナーには二つの選択肢がある。我慢強く当局が操業再開を許可するまで待つか、事業を畳み、中国を離れ、別の場所で事業を再展開するか、である。
予想通り、中国のマイナーの多くは中国を立ち去ることを選んだ。この決断をするということは、操業する上でマイニング設備を停止させ、荷造りし、新天地に送り、据付を行い、その後マイニング活動を開始しなければならないということだ。このことは総マイニングハッシュレートが最近大幅に低下している様子から、リアルタイムで進行していることが窺える。
ビットコインの美点はこのようなハッシュレートの低下がおよそ二週間毎に行われる採掘難易度調整によって速やかに調整されるというところだ。この仕組みを知らない者にとって最も簡単な説明は、ネットワークに残っている者はマイニングが容易になる、というものになるだろうか(つまり、操業を一時停止したマイナーがマイニング活動を再開するまで、残ったマイナーが利益を上げやすい状態になるということだ)。
ここにいくつか考慮しておくべき影響があると思う。
一つ目は、中国のこの動きはビットコイン反対派に対する一撃になるということだ。反ビットコインの議論はこれまで中国のマイニングにおける市場占有率、あるいは中国がビットコインネットワークを支配、操作する可能性を中心に展開されてきた。この議論は、マイナーが中国を立ち去ることで説得力をほとんど失っている。中国はビットコインを支配しないししていたこともない。更に、自由市場における経済的動機によってマイナーはいつも、特に政治面、規制面で最大の安定性がある地域では最も安価な電力を求める。
次に、合衆国がこの状況の恩恵を強く受けるということがある。例えば、アメリカ最大のビットコインマイニングプール、Foundry USAのハッシュレートが唯一増加した事実に目を向けてみよう
ツイート)過去24時間において、Foundry USAは主要なビットコインマイニングプールでハッシュレートが増加した唯一のマイニングプールだ。
中国がマイニングの市場占有率を失う中、合衆国は市場占有率を獲得している。中国のマイナーが全て米国に来るというわけではないため、必ずしもそれが一対一になるというわけではないが、他の国が合衆国よりもこの状況の恩恵を受けているという主張をするのは難しい。
これが私がこのニュースレターの冒頭で地政学的な過ちに言及した理由である。中国は明らかな自傷行為となる道を選びながら、同時に大きな非暴力的な勝利を西洋の超大国に明け渡した。この状況の真っ只中でこれを理解することは難しい。これは何年も明らかにならないかもしれない。しかし、これが現在起きていることである。
歴史家は中国がハッシュレートの大半を抱えていたにも関わらず、より民主的で資本主義的な社会にそのハッシュレートを明け渡すことになる判断をしたと記すだろう。ちょうど北朝鮮が支配層にのみインターネットの利用を許したように、中国も似た過ちを犯している。それではまだ足りないと言うように、中国の国民国家デジタル通貨計画は北朝鮮内部の「インターネット」と似ている。
過去何度も議論したように、開かれたシステムは閉じられたシステムに打ち勝つ。中国の、堅く統制された金融システム構築のために、開かれた金融ネットワークを禁止するという方策は国民にとって利得のある戦略的手だてだとは見なされない可能性が高い。しかし、ちょうど北朝鮮のように、この決定は権力の安定化を図り、独裁政府の寿命を確保する助けにはなるだろう。
対して合衆国はビットコインを取り入れ始めている。私たちは、私たちの政治指導者や規制当局のチームがこの開かれた金融システムの世界的なリーダーとなるように働きかけ続けなければならない。進んで採用するしないに関わらず、ビットコインネットワークは世界中の国々に受容される。ちょうど他の国が開かれた情報システムに接続することを決めたために、北朝鮮やその他の国がインターネットを活用するかしないかがさしたる問題ではなかったのと同じように、一つの国がビットコインをどうするかということもさしたる問題ではない。この開かれた金融システムに接続することを待っている国の方が多い。
これがビットコインの美点である。ビットコインは地政学に配慮しない。金融政策に配慮しない。感情に配慮しない。ビットコインネットワークはただ取引のブロックを延々と作り続けるのである。このネットワークは設計された通りのことをこなすだけだ―インターネットに接続できる世界中の全ての人が利用することが出来る分散型の支払いシステムの提供である。
中国は最近の記憶の中でも特に大きな地政学的過ちを犯した。合衆国はこの状況でどの国よりも大きな恩恵を受ける。アメリカ国民は与えられたこの恵みを祝福し、利用するべきだ。チェスにおいては必ずしも勝利する必要はない。相手が悪手を打つのを待てば良い場合もある。
良い一週間を。また明日。
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翻訳者ペンネーム:Decryptor